新田原に現れた「臨時F-35B飛行隊」初展示飛行を見てきたぞ!

「臨時F-35B飛行隊」とは

2025年12月7日。
宮崎県・航空自衛隊新田原基地で開催された「エアフェスタ2025」に行ってきました!

大注目だった新田原に新設された 「臨時F-35B飛行隊」による、初の一般公開展示飛行 の様子を紹介します!

新田原基地の臨時F-35B飛行隊に所属するF-35B

会場の一角には、航空自衛隊が導入したばかりのF-35Bが2機並び、そのうち奥側の1機が展示飛行を担当。エンジン始動を終え、ゆっくりとタキシングを始めた姿に、周囲の観客からはどよめきが起こっていました。

海兵隊仕込みのハンドサインでF-35Bを誘導する自衛隊員
空母の発艦シーンでよく見るカッコいいハンドサインで出発するF-35

F-35B導入はどこから始まったのか 2018年「防衛計画の大綱」の一文

自衛隊によるF-35B導入の物語は、2018年に改定された「防衛計画の大綱」 から始まります。

そこには、こんな一文が盛り込まれました。

柔軟な運用が可能な短距離離陸・垂直着陸(STOVL)機を含む戦闘機体系の構築等により、特に、広大な空域を有する一方で飛行場が少ない我が国太平洋側を始め、空における対処能力を強化する。その際、戦闘機の離発着が可能な飛行場が限られる中、自衛隊員の安全を確保しつつ、戦闘機の運用の柔軟性を更に向上させるため、必要な場合には現有の艦艇からのSTOVL機の運用を可能とするよう、必要な措置を講ずる。

この一文は、日本が事実上

  • 空母的な運用が可能な艦艇
  • そこから発着できる「艦載戦闘機」

を再び保有する方向へ舵を切ったことを意味する、非常に大きな転換点 でした。

ここで鍵になっているのが、
短距離離陸・垂直着陸機能=STOVL(Short Take-Off and Vertical Landing) です。


STOVL戦闘機という“超ニッチな”世界

STOVL機の開発は、技術的ハードルが極めて高い分野です。
航空史の中で、これを実用レベルまで持っていけたのは わずか3機種 しかありません。

  • イギリスの「ハリアー」シリーズ
  • ソ連の「Yak-38」
  • そしてアメリカの「F-35B」
イギリス(+アメリカ)が開発したAV-8ハリヤー
ソ連が開発したYak-38

ハリアーとYak-38はすでに生産終了から久しく、
2018年時点で新造機として手に入るSTOVL戦闘機は、F-35B一択 と言っていい状況です。

そのため、日本が2018年に「STOVL機を導入する」と発表した時点で、「どう考えてもF-35Bでしょ」というのは、軍事関係者・航空ファンの共通認識でした。

形式上、防衛省は「STOVL機を売りたいメーカーは手を挙げてください」という公募手続きを行いましたが、応募してきたのは結局F-35Bのみ。
その結果、予定調和的にF-35Bに決定する という、ある意味儀礼的なプロセスを経て、導入が正式に決まりました。


F-35BのSTOVL機構を“生で見る”

今回の展示飛行では、F-35Bの最大の特徴である STOVL機構の変形 を、繰り返し見ることができました。

滑走路端に到着したF-35Bは、まず 短距離離陸 を披露するため、STOVLモードへの移行を開始します。

Before imageAfter image
  • コックピット後方の機体背中側がガバッと開き、リフトファンの空気取入口 が露出
    リフトファンは、メインエンジンから伸びるドライブシャフト で駆動される、巨大な“扇風機”のような仕組みです。
  • 機体後方では、エンジンの 排気ノズルが下向きに大きく回転。斜め下向きにジェット排気を吹き出し、前進しながら機体の後ろ側を持ち上げます。
  • 左右の翼にはエンジンの排気の一部が送られ、開閉式の弁によって推力を調整することで左右の傾きを調整します。
STOVLモード時のF-35Bの機構

こうした複雑な機構が完全に同期して動くことで、
F-35Bは「地面の上でふわっと浮かび上がる」ような短距離離陸・垂直着陸を実現しています。


実際の展示飛行の流れ

今回のエアフェスタ2025では、おおよそ次のようなシーケンスが披露されました。

1.短距離離陸(STO)
STOVL形態に変形したのち、短い滑走で地面を離陸。
その後すぐに通常飛行モードへ移行し、会場上空へ。

2.通常モードでのタッチアンドゴー
一般的な戦闘機と同じ形態で、滑走路へ進入。
接地してすぐに再加速し、離陸する“タッチアンドゴー”を実施。

3.STOVLモードでのタッチアンドゴー・ローアプローチ
STOVLモードでのタッチアンドゴー、滑走路上を低空で通過するローアプローチを実施

4.STOVLモードでの進入・垂直着陸
再びSTOVLモードを作動させ、機体は「ふわふわ」と、通常の航空機ではあり得ない挙動で接近。
最終的には その場で完全に空中停止したような状態 から、ゆっくりと垂直着陸を行いました。

「本当に固定翼機なのか?」と疑いたくなるほど、ヘリコプターのホバリングに近い挙動をしており、STOVL技術の凄まじさを改めて実感させられるデモでした。


どこにでも降りられるわけではない 1,000℃級の排気が路面を“溶かす”

「垂直着陸ができるなら、どこにでも降りられるのでは?」と思いがちですが、F-35Bが垂直着陸できる場所には大きな制約があります。

垂直着陸時、エンジンから真下に吹き付ける排気は約1,000℃近い超高温 に達します。

そのため、

  • 通常のコンクリートやアスファルトの路面は破壊・溶融してしまう恐れがある
  • 完全な垂直着陸を行う場合は、専用“垂直着陸場” が必要

という条件が付きまといます。

一方で、時速100km程度の前進速度を保ち、およそ200mほど滑走しながら着陸する 「短距離着陸」 であれば、熱の集中を抑えられるため、通常の滑走路でも運用可能です。


臨時F-35B飛行隊と今後の部隊編成

現在、新田原基地にはまず 5機のF-35B が到着しており、これをもとに 「臨時F-35B飛行隊」 が編成されています。
臨時F-35B飛行隊のパイロットや整備員は、導入前にアメリカ海兵隊で訓練を受け、F-35B運用のノウハウを習得しています。
ちなみに今回の展示飛行を操縦していたのは、臨時F-35B飛行隊の隊長ご自身だったそうです。

今後は、

  • 2026年3月に「第202飛行隊」が正式なF-35B飛行隊として新設
  • いずも型護衛艦への発着艦訓練を含む、本格的な運用訓練が拡大

といった流れが予定されています。


なぜ新田原なのか

航空自衛隊が導入する F-35Bは合計42機
これらは まず全機が新田原基地に配備される 計画になっています。

新田原基地となった理由は「南西諸島防衛におけるバックアップ基地として最適」 からです。

  • 最前線の那覇基地(沖縄)は、有事の際に真っ先に攻撃対象となるリスクが高い
  • 一方、新田原基地は九州南部に位置し、仮に南西諸島や那覇基地が攻撃されても、そこから 迅速に戦力を送り込む“後方拠点” として機能できる

さらにF-35Bは、STOVL能力を活かして

  • 他の戦闘機では使えないような短い滑走路
  • 一部が損傷した滑走路

からでも運用可能です。

F-35Bは、新田原基地を起点としながら、有事には南西方面の複数拠点へ柔軟に展開できる、「機動性の高いバックアップ戦力」 として期待されているわけです。


まとめ:新田原から始まる、日本のF-35B時代

新田原基地はこれからしばらく、日本のF-35B運用の“ゆりかご”となる場所です。

ここで培われるノウハウや運用実績が、いずも型護衛艦での運用や南西諸島防衛体制の強化へとつながっていく――

今回の展示飛行は、そんな 「日本のF-35B時代の幕開け」 を象徴する一日だったと感じました!

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